sounds like cities






都市の記憶、音の記憶
on July 15th 2020



 渋谷・円山町Sta.にて、2020年7月4日から7月12日まで開催していた個展「Urban Reminiscence——Sound, Object, and Rhythm」が終わりました。会期中、音が流れつづける自分の作品の隣で多くの時間を過ごす中で、自分の作品や活動、ひいては都市と音楽について思うことを手帳に書いていて、これを機に自分の活動含めて文章を書き残す場をつくりたいなと思い、自分のウェブサイトにこのスペースをつくりました。 

 不定期になりますが、音や写真とともに、文章を書いて更新をしていこうと思います。


1. ヨーロッパでの経験


 今回の作品は、僕が去年2019年9月から在籍しているヨーロッパのプログラム・European Postgraduate in Arts in Sound(EPAS)での成果報告として制作したものでした。EPASはベルギーのゲント王立芸術院が主宰しているサウンドアートのプログラムで、ベルギー・ゲント、オランダ・アムステルダム、フランス・リールなどを巡って、音の持ち得る可能性を探求するとても魅力的なコースです。音を聴くこと(=listening)だけで想像力を拡げていくことや、音を空間に配置すること(=composition)、音を主題に作品をつくること、数え切れないほど多くを学ばせていただきました。(EPASやヨーロッパでの経験や旅行記は、またゆっくり書けたら、と考えています。)

ベルギー・ゲント王立芸術院(KASK & CONSERVATORIUM)


 そして、複数の都市を巡りながら、音やサウンドアートについて実践を行うなかで、「都市の環境音(サウンドスケープ)は人間にどんな影響を与え、どのような可能性を持っているのだろう?」という疑問が生まれ、それが起点となって、さまざまな音の作品をつくっていき、最終的に今回の個展に発展していきました。


2. 都市の記憶


 今回の作品は、都市の廃材を集め、その廃材がきいていた音をフィールドレコーディングするところからはじまります。廃材を通してその音を奏で、空間に配置すること(ぼくはこの行為がとても作曲的だな、と考えています)で、複数の都市のサウンドスケープを、都市の記憶として再構築しました。


 展示風景より(写真:高橋一生)

 レストランでもある展示会場のSta.さん、FabCafe Tokyoさん,そして株式会社NODさんに協力していただき、渋谷の廃材を受け取り、その廃材が置いてあった場所で音を録音することで、廃材の記憶を記録・録音していました。そして、録音した音を鳴らすときは、特殊なスピーカーを廃材に貼りつけていたのですが、音は振動なので、その廃材の素材や物質性によって響き方が異なり、それがとても記憶らしいな、と感じていました。人間も、同じ経験をしていても人によって異なるように記憶していたりするように、廃材(物体)も、その身体によって音の記憶の仕方は異なるのです。
 そんなことを考えながら、都市の記憶をSta.さんの会場に音として配置し、(ギャラリーがオープンなので)渋谷の実際のサウンドスケープと、僕の作品から流れる記憶のサウンドスケープを混ぜ合わせることで、都市の記憶を体験するサウンドインスタレーションを制作しました。


3. 都市の音


 実際に作品をインストールして、個展をオープンしてみると、いろいろな気付きがあり驚きました。
 大きな気付きとしては、都市で音を奏でることは、ささやかな都市への介入になり得る、ということです。都市に音を流すことは、とても繊細な行為なので注意が必要ですが、Sta.さんのギャラリースペースの寛容さに助けられることで、心地よく音を流し続けることができました。
 展示している廃材自体は、視覚的に再構成しているものの、日用品のブリコラージュなので、僕の作品は会場(そして都市)に漂っている「音的な、音楽的な、なにか」になります。その「音的ななにか」を聴き取って反応をしてくれる人もいれば、全く気にかけない人もいる。それが僕にとってはとても美しい現象に感じられました。
 ギャラリーが半オープンなので、僕の個展だ、ということを知らない人もたくさん通りかかります。何事もなく通り過ぎる人、じっと見つめてから過ぎ去る人、僕に質問してくれる人————その現象すべてが、都市で音の作品を展示する魅力だと強く実感しました。そして都市に音を配置することで生まれる(音)風景こそ、都市空間でのサウンドアートの作品たりえるのではないか、と今は考えています。
 

4. 音の記憶  


 都市の環境音を複数混ぜて作品をつくっていると、それらがときに干渉し、共鳴したり、不協和を奏でる瞬間に意識的になります。「あ、音楽っぽいな」と感じたり、「ちょっと心地悪いな」とか、いろいろな瞬間が音によって構造化されます。都市の環境音をレイヤーにすることで、音がノイズらしくも、きれいな音楽としても聴こえることに可能性を感じています。
 そしてより興味があるのは、音が記憶を呼び起こす瞬間です。音を聴いて、ふと昔のことを憶い出したり、訪れたことのある場所に意識が飛ぶ瞬間が、ぼくはとても尊いなと思います。音が人にどんな記憶を想起させるのかは、状況によっても異なるし、その人の過去の経験やその日の身体の状態にもよりますが、そんな音の気まぐれな性質も踏まえて、都市と音に向き合う面白さを日々実感しています。


5. 展示を終えて
 
 
 今回の展示は、たくさんの人のサポートがなければ実現しませんでした。EPASでの研究制作を支えてくれた先生方や友人には、なによりの感謝をしております。彼らと音について議論する日々がなければ、間違いなく現在の自分はありませんでした。そして、実質上のメンターである、ロンドン芸大のマークには、常に思慮深い批評をしていただきました。
 また、「都市の音を彫刻する」という不思議な企画案を快諾していただいたSta.の奈雲さんには、感謝をしてもしきれません。この場をかりて、お礼を言いたいと思います。本当に、どうもありがとうございました。
 テクニカルサポートをしてくれた宮下くん、安斎くん、湯本くん、設営サポートをしてくれたhazuちゃん、榊原さん、どうもありがとう。
 そして、個展の記録を全て美しく撮影してくれた高橋くんにも感謝をします。いつもありがとう!

 今後も、都市と音楽について理論と実践を架橋した活動をどんどんしていこうと思っています。自分自身でも、なんだか複雑な活動をしているな、とたまに思いますが、その過程含めて、ここで記録していけたらなと思っています。

 
2020年7月15日、「Urban Reminiscence」の展示会場前での環境音を聴きながら。